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この秋、私は
よく「芸術の秋」などと言いますが、そのせいでしょうか、私は例年10月から11月にかけて、かなり多忙な日々を過ごします。今年も、嬉しいことに国内のあちこちで演奏する機会に恵まれて、充実した毎日を送っています。
9月には、「日本の作曲家・21世紀の歩み」と題したシリーズで、平尾貴四男氏のソナタを弾き、西洋の手法と日本の心の融合を目指された平尾氏の作風に強い共感を覚えました。また、ピアノ界の長老である田村宏先生の「室内楽シリーズ」で共演させていただく機会を得、先生の豊富なご経験と、音楽に対する積極的な姿勢から、多くの大切なことを学びました。
10月の12・13日には、府中市のウィーンホールで土屋美寧子と共に、プロコフィエフのソナタのCD録音を行いました。2日間かけてヴァイオリンとピアノのためのソナタ2曲と、無伴奏ソナタをレコーディングしましたが、いつもながらCD製作の仕事は非常な緊張感を伴い、肉体的な疲労も相当なものでした。しかし、今回は終始集中力が途切れずに楽しく演奏できたのが、大きな収穫でした。20年以上もパートナーとして一緒に演奏してきた美寧子とのレコーディングもこれが4回目で、ずいぶん慣れてきました。共に協力し合って一つの音楽を作り上げる喜びは例えようもなく、そうした気分が聴いて下さる方々に伝わるCDができ上がることを願っています。完成は、おそらく来年の春になるでしょう。
今回のレコーディングで特に嬉しかったのは、日ごろから考えているヴァイオリンの弾き方が、これまで以上に実践できたと感じられたことです。具体的に説明するのは少し難しいのですが、要するに自分を素直に表現する為の右手の技術なのです。ヴァイオリニストにとっては、いかにして右手の力を抜くかが重要な課題ですが、いつも力を抜いたままにしておくわけにはゆきません。その場の要求に応じて素早く力を入れたり抜いたりすることができれば、弾力性のある運弓法が可能になります。私は子どもの頃から右手のテクニックが苦手で、ずっと苦労しているのですが、この年令になって少しずつ進歩していることが実感できたのは、大きな喜びでした。このようなちょっとしたことで、気持ちがぐっと前向きになれるから不思議です。
「スケジュール」のページでご紹介しているように、これからも国の内外でコンサートが続きますが、私らしい音楽をいっそうはっきりと現せるように、前向きの気持ちを大切に取り組んで行きたいと考えています。1年かけて丹精した「音楽の木」にたくさんの美味しい実が生り、それをたくさんの方に食べていただけるように、そんな秋になればと願っている私です。
98年11月 和波たかよし
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