記事&エッセイ:今年最後のコンサート



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今年最後のコンサート

 いつのまにか1998年も後十日を残すのみになってしまいました。少しずつ1年の経過が早く感じられるようになるのは、やはり年のせいなのでしょうか。特に、10月からはずっと忙しい状態が続き、目の前の仕事と夢中で取り組んでいるうちに、気が付いたら年末になっていた、というのが実感です。

 12月は北海道、大阪、九州と旅行が続いていましたが、それらのコンサートも終わり、後は26日の東京・サントリー小ホールでの「クリスマス・バッハシリーズ」を残すだけになりました。今回が8回目となる「バッハシリーズ」では、バッハとイザイの無伴奏ソナタを2曲ずつ演奏します。落ち着いてこの1年の自分の活動の後を振り返り、そこから得た経験を生かして、自分として納得の行く締め括りのコンサートにしたいと考えています。狭い会場ではありますが、多少は当日券の用意もありますので、年末の一夜を、是非私のヴァイオリンと共にお過ごしいただきたいと思っております。

 ところで、私は昨年の夏ロンドン郊外の教会で、イザイの無伴奏ソナタ全6曲をレコーディングし、そのCDがこのほど日本とイギリスで同時に発売されました。まだ26歳だった1971年に、この6曲のソナタのレコードを製作し、それが「文化庁芸術祭優秀賞」を受賞するなどの成果を収めました。今回は26年ぶりに再びこの作品と取り組んだのですが、私が最も大切なレパートリーの一つと位置付けているイザイを再録音できたのは、大変幸せなことでした。勿論、この26年間にもしばしばコンサートでイザイを取り上げていましたし、研究も深めてきました。私自身の演奏スタイルも少しずつ変化していると思います。それらのことを踏まえて、「現在の私のイザイを残しておきたい」との思いから、この2度目の録音を決心したのでした。私が厚い信頼を寄せるイギリスの著名なプロデューサー、ジョン・ボイドン氏をパートナーに、彼と議論したりアドバイスを受けたりしながら、楽しく充実した3日間のレコーディング・セッションを行うことができました。

 卓越したヴァイオリニストであったイザイの作品だけに、曲の随所に難技巧が織り込まれていますが、これを単なる華やかな技巧曲として演奏するのは危険なことです。作品の奥底には、イザイのヴァイオリンという楽器への並々ならぬ愛情と、後輩のヴァイオリニスト達への熱い思いが流れていると、私は考えています。ヴァイオリンの音の魅力やスピード感に加えて、そうしたイザイの内面性も表現したいというのが、イザイを弾くときの私の姿勢です。どんな演奏に仕上がったか、皆様にも是非味わっていただきたいと思います。(アートユニオン ART-3807 税込価格 \2625)

 何かと暗い出来事の多いこの頃ですが、私は常に明るい未来を信じ、「希望」や「祈り」の心をヴァイオリンに託して、演奏して行きたいと考えています。新しい年も、より多くの方々と音楽の喜びが分かち合えるように、毎日を大切にしながら活動を続けて行くつもりです。これからも、私の音楽をよろしくお願いいたします。

98年12月 和波たかよし



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