3月12日 ロンドンで休暇

 今、私はロンドンにいる。今回は純然たる休暇であるため、前もってこの日記ページに書き込むこともせず、9日の朝に日本を出てきた。

 この1年、私は「何もすることのないゆっくりした日々を過ごしたい」とずっと望んできた。今は「何もすることがない」というわけにはいかないが、日本からこれだけ隔たった場所に身を置けば、メールや電話によるコミュニケーションは続いているものの、ある程度毎日の生活から距離を置いて、ゆったりした気分で過ごすことができる。それによって英気を養い、新たなエネルギーを持って日本の生活を再開したいと思っている。帰国は18日の予定だ。

 10日はリッカルド・シャイー指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団、昨日はケント・ナガノ指揮によるサーリアホの現代オペラ、そして今日は、パリ管弦楽団のメンバーによる室内オーケストラの演奏を聴いた。昨日と今日はパリで過ごし、友達にも会うなどして今夜ロンドンに戻ったのだが、3日続けて聴いたコンサートは、どれも素晴らしいもので、演奏家たちの音楽と真摯に向き合う態度が私に大きな感動を与えた。日本の生徒たちにも、こういう真摯な生演奏にふれてもらいたいものと、つくづく思った。

 真摯に向き合うと言っても、力が入りすぎていては聴き手を疲れさせてしまう。まずは力を抜いて、自然な心と体で音楽に没入していく、そういう演奏態度が理想だ。それと、どんなレベルにあっても妥協を許さず、常に自分の技術と音楽性を高める努力をすること、それができている人の演奏こそが、聴き手の心を動かし、感動を呼び起こすのだ。

 昨夜のオペラを歌った歌手たちは、皆若手であった。私の生徒とあまり変わらない年代の人もいた。彼らの音楽への没入ぶりは、本当にすさまじいほどのものだった。これと比較するのは酷かもしれないが、日本の生徒たちは、全体的にやや消極的な気がする。もちろん、これは私の周りの話であって、日本の演奏家の中には積極的に音楽を高めようとして努力している人も少なくない。だが、全体的に言って、今の日本は少し甘い気がしてならない。世界の中で、日本の地位が少しずつ霞かけているようだが、それは日本人全体が持つある種の甘えや消極性から来ているのではなかろうか、などと遠いロンドンで勝手なことを考えている。

 パリに行こうとして、ホテルにパスポートを忘れて出てしまい、途中から妻に取りに戻ってもらって、さんざん嫌われるという、どうにも始末の悪い旦那をやっている私だが、今は休暇中。精一杯ずっこけて、元気になって帰りたいものである。

和波たかよし

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