5月7日 礒山雅先生の還暦を喜ぶ会

 少し前の話になるが、4月30日に「礒山雅先生の還暦を喜ぶ会」に出席し、先生と親しい方々の中で実に心楽しい一時を過ごした。

 礒山先生のことは、この日記ページでも何回か書かせていただいたが、私が先生と出会ったのは1997年の5月、イタリアのフィレンツェだった。サイトウ・キネン・オーケストラが、ヨーロッパツアーのためフィレンツェに集結し、連日練習を重ねていた時のことだ。その年の8月に松本で「マタイ受難曲」を演奏するのに先立って、バッハとマタイについて礒山先生のレクチャーをお願いしたのである。皆でお話しを伺える機会は他にないから、と先生にわざわざフィレンツェまで来ていただくというのは、いかにも小澤さんとサイトウ・キネンの事務局らしい発送だったが、連日の練習に加えてレクチャーも聴かなければいけないというのは、少々気の重いことだった。

 ところが、お話しが始まると、私は疲れも何も忘れて夢中で聞き入った。それは、私のバッハへのアプローチを大きく変えてくれるほどの強いインパクトを持ったレクチャーだったのである。詳しくは、私の著書「ヴァイオリンは見た」にも書いたので省略するが、この日から私は礒山先生のファンになった。

 昨年の12月、私のバッハ演奏について先生のご意見が伺いたくて、国立音大の先生の研究室に押し掛けた。それがどれほど有意義で楽しい時間であったかについては、この日記ページにも書いたが、あれが5年ぶりの再会だった。そして今回、パーティーへの嬉しいお誘いをいただいたのである。

 「喜んで出席します」とお返事すると、「お祝いのコンサートで弾いてもらえるか」とのお尋ねがあり、これも喜んでお引き受けし、妻と共にモーツァルトのロンドを弾かせていただいた。やく1時間のコンサートは、自分も弾いたためにその一部分しか聴けなかったが、とても感銘の深い演奏が続いて心が熱くなった。

 続く立食パーティーも、先生の飾らないお人柄を反映してか、実に和やかな雰囲気で進行し、私はすっかり上機嫌になっていつもより多くワインを飲んだ。そして、そのワインで少し頭がおかしくなりかけた時、クイズが始まったのだ。

 この種のパーティーでクイズやゲームがあるのは、かなり珍しいことではないだろうか。ただ、礒山先生とお仲間の集まりでは、どうやら珍しいことではないらしいのだ。クイズがあることだけでもユニークだが、その中身がもっとユニークである。出題者は礒山先生ご自身、そして問題は、すべて先生の行動や性格に関わる、いわばプライバシーをさらけ出した設問なのである。たとえば、「還暦の誕生日を迎えた朝、私は何を思ったでしょうか」との問題に三つの答えが用意され、こちらはその中から一つを選んで色違いの折り紙を挙げて回答する。私は、妻から3枚の折り紙を受け取り、それを赤、青、黄色の順に重ねて、間違えないように選んで挙げながら、クイズに参加した。矢継ぎ早に出される問題の正解を考え、間違えないように折り紙を選んで挙げる、これは頭の回転が少々鈍くなっていた私にはなかなかの作業だった。

 ところがである。グラス1杯のワインが身方してくれたのか、私はあれよあれよという間に勝ち進み、気が付いたら二人だけの決勝戦を迎えていた。ここで出された問題は、なぜ礒山先生が飛行機のビジネスクラスに載りたいと思っておられるか、というもの。3択の答えの中に、「スチュワーデスに胸を張って何でも頼めるから」(うろ覚え)という内容のものがあったので、私はその答えに書けて、青色の紙を差し上げた。そして、見事正解したのである。

 このパーティーの記念品として、先生がご自分のホームページで発表された「日記風談話」の中から選りすぐりのものを集めた冊子が配られたが、私には点字版が用意されていた。こうしたところにも、先生と事務局の皆さんの温かい配慮が感じられ、私は幸福な喜びに包まれて家路についた。

 残念ながら、礒山先生のホームページは現在閉鎖されている。しかし、ページが開いていた時は、およそ3日か4日に一度のペースで、示唆に富んだ素晴らしい日記が書き込まれていた。実は、そのページ、「I享受の家」に刺激を受けて、私もこの日記ページを始めたのである。だが、やってみると全然先生のようには行かない。書き込みのペースも遅いし、先生のように率直に自分をさらけ出すこともできない。だが、もう少し怖がらずに書いてもいいかな、と先生のエッセイ集を拝見しながら思った。せっかくこのページがあるのだから、私自身のストレス解消の場として役立てると共に、読んで下さる方々にも楽しんでいただけるものを書いていけたら幸せなことだな、と思う。これを機会に、日記ページの活性化を誓ったが、はたしていかがなりますやら……。

和波たかよし

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