8月12日 パソコンショップで

 8月も、もう中旬に入ってしまった。私は夏風邪に悩まされ、3日ほど前まではどうも鬱陶しい気分だったが、ようやく元気を取り戻した。せっかく八ヶ岳を休んだのに、風邪とは残念だったが、体をよく休めることができたのは事実だ。まあ、これで良しとしなければなるまい。

 この1週間は、大好きなコンピュータと関わることができて、楽しかった。というのは、20年ぶりに来日したロシアの友人、カリストフ君が、どうしても日本でコンピュータを買いたいと言い出したのだ。日本は、彼が暮らすイタリアよりパソコンがずっと安く手にはいるので、日本で買っていって英語版のウィンドウズを自分でインストールするという。

 そんなことをやっていいのかいな、と心配しながらも、彼の希望に応えてバッテリー駆動時間の長い軽量パソコンをインターネットで懸命に探した。思えば、私も物好きである。そして、彼の滞在最終日となった今月8日には、京都から帰ってきた彼と落ち合って秋葉原へ出かけた。

 私の妻は、パソコンを物色しに秋葉原へ行く私に付き合う気などさらさらない。「俺のためじゃないんだ。友達に頼まれたから行くんだ」と言ったって、彼女の気持ちが変わるわけはない。そこで私は、母が代表を勤める「アカンパニーグループ」に救援を求めた。本来は、地方から上京して来られる視覚障害者の移動介助をするグループだが、私も時たま利用させてもらっている。今回は、およそ2年半ぶりに助けてもらうこととなった。

 私の得た情報に従って秋葉原で何軒かの店を歩き、数台の機種を見たが、彼はどうしてもパナソニックのCDドライブ付きの軽量パソコンが買いたいという。ソニー製なら元々英語版のウィンドウズがインストールされた機種を、免税コーナーで購入することができるのだが、パナソニックに比べると重いし、値段は高いし、CDドライブは付いていないし、バッテリー駆動時間は短いし、どうしても彼の気に召さなかったのである。

しかし、店員さんは「英語版をインストールする」と言うと「それはサポート外ですからお勧めできませんね」と声を大きくした。当然のことだ。でも、カリストフ君は引き下がらない。店員さんに頼んで、パソコンをCDから起動させるように切り替える方法を伝授してもらい、とうとう買う決心をしてしまった。店員さんも親切に相手をしてくれ、私は側で通訳したりしながら感動を覚えていた。

 彼は、メモリーを1GBに増設することを頼んだり、予備のバッテリーも注文し、いよいよ支払うこととなった。店員さんは、彼のパスポートを見ながら慣れない免税用の書類作成と取り組んでくれた。そしてようやく会計のカウンターに移動。ところが、彼のクレジットカードがエラーになってしまう。金額が制限範囲を超えているらしい。彼がもっているキャッシュでは足りないし、もう夕方になっていたから両替もできない。私もパソコンが好きだから、彼の落胆ぶりはよく分かった。どうしたものか、とかなり疲れた頭で考えを巡らせたあげく、「俺のカードで買うことにしよう。後で君が送金してくれればいいから」と友達甲斐のあるところを見せ、店員さんに私のカードを差し出した。彼も大喜びで、一件落着。夕食後にメモリーの増設ができた品物を取りに来るから、と店を出た。

 夕食には、以前カリストフ君と関わりのあった視覚障害を持つ音楽家や、その友人も集まって、これも私がインターネットで物色した秋葉原の中華料理店で美味しく食べた。そこに集まった中の一人は、長いこと私が「コンピューターの先生」と呼んでパソコンのことをいろいろ教えてもらっていたN君。今回のカリストフ君のことも、このN君に相談に乗ってもらっていたが、彼も日本語のOSがインストールされた機種を買うことにはかなり懐疑的であった。食事中にことの成り行きを話すと、「もしかしたらリカバリーのCDが付いていない機種かもしれない。それだったら、英語版をインストールする前に自分でリカバリーCDを作っておかないと、もし英語版で使えなかった時に、高いお金を払わないと元に戻せませんよ」と言い出した。そして何と、食事の後で全員がパソコンショップへ繰り込んだのである。

 私は、またまた感動してしまった。視覚障害者同士という親近感もあっただろう。また、パソコン好き同士だからこそ感じる特別な親しみもあっただろう。とは言っても、初めて会った外国人が買おうとするパソコンのことで、これほど親身になって心配してくれるN君の心が、私は本当に嬉しかった。結局その機種にはリカバリーCDが付いており、N君も納得して、カリストフ君はパソコンのパッケージを手にしたのであった。

 私は、普段の生活とは一味違う1日を過ごして、本当に楽しい思いをしたが、後でちょっとほろ苦い気分も味わった。彼のことばかりやっていて、せっかくパソコンショップへ行ったのに、自分の買い物は何一つできなかった。カリストフ君とは、20年ぶりに再会して友情を確かめ合ったが、もう彼は日本を離れてしまった。なんだか心が寂しい。もう一度、今度は自分のために、誰かを頼んでパソコンショップへ出かけたいものである。

和波たかよし

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