9月8日 松本のホテルで

 今、私は松本に滞在している。去年は、3週間もの長い滞在だったが、今年は1週間だけだし、演奏する曲も少ないので、比較的楽な日程に感謝しながら過ごしている。最初の2日間は美寧子が一緒だったが、一昨日の夜からは単身生活である。しかし、昨日も今日も生徒がレッスンに訪れ、こちらもいろいろ手伝ってもらったり一緒に食事をしたり、楽しくやっている。

 明日は、いよいよ私の出演するBプログラムの本番が始まる。ショスタコーヴィチの交響曲第5番は、ぜひ一度弾いてみたかった曲なので、良い経験に満足しながら弾いている。ただ、音楽の深みや芸術的な高さから言えば、やはり私はベートーヴェンの方に軍配を上げたい。今日は内田光子さんの「皇帝」のリハーサルを聴いたが、スケールの大きさと繊細さを併せ持つ素晴らしい演奏で、オーケストラとの緊張感に満ちた協演が感動的だった。編成が小さいために、私はこの曲の演奏から降りることになったが、正直なところ残念な気持ちでいっぱいだ。「楽にさせてあげよう」との事務局の配慮だったかもしれないし、若い人に道を譲れという意味かもしれないと考えたが、事実仕事は楽になったものの、やはり物足りなさはいかんともし難い。ベートーヴェンを演奏する時に味わう喜び、あの芸術の高見にふれる感動は、ショスタコーヴィチからは得られない。開場での待ち時間が長いのも、ちょっとストレスの種だ。だが、まあ仕方がない。与えられた仕事にベストを尽くすことだ、と自分に言い聞かせている。

 単身生活は、仕事以外の時間が、どうしてもホテルに閉じこもりがちになる。誰かが食事などに連れ出してくれることもあるが、さほど自由時間が多いわけでもないから、誰かと約束して食事に出かけるというのは、それほど簡単なことではない。閉じこもっていても不自由はないが、時々気分転換をする必要はある。

 単身生活のメリットとしては、美寧子があまり好きでないテレビの音量を上げて聴くことができたり、パソコン操作もイアフォーンを使わず、スピーカーから流れる音声を聴きながらできることなど、いろいろある。Ipodに録音してきたCDをポータブルスピーカーで聴いたりもしている。こうした生活も後4日、あっという間に終わる。松本は食べ物も美味しく、今日も名古屋から来た弟子と、近くの店で安くて美味しい焼き肉定食を満喫した。普段とはひと味違う松本暮らしを楽しんで、なおかつ良い演奏に貢献しながら残りの日々を過ごそう。

和波たかよし

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