9月15日 東京に戻って
サイトウ・キネンでショスタコーヴィチのシンフォニーを最後に弾いたのは、僅か3日前の夜だったのに、もうあれから随分長い時間が経過したような不思議な気分だ。我が家の生活に戻ると、松本の日々はすべて夢の中の出来事だったような感覚に打たれる。
今回は、滞在期間が短かったこともあり、あまり疲れを感じることもなく通常の生活に復帰できた。自分の練習は、10月に初めて演奏する予定のショスタコーヴィチのソナタの勉強に集中している。この譜面の難しさは、オーケストラで演奏した「交響曲第5番」の比ではないから、暗譜だけでもかなり骨が折れる。それに、オーケストラでは、もしも私に頼りない部分があったとしても、音楽は何事もなく進行していく。だが、ソナタではそうは行かない。細かい音の一つ一つにまで神経を通わせて、演奏しなければならない。それだけに、新しいレパートリーを勉強するのは大変だが、この苦労を通り抜けなければ自分の演奏したい曲をステージにかけることはできない。言ってみれば、これは私に科せられた課題なのであって、この「譜読み」や「暗譜」のプロセスを通り抜けることで、少しずつ強くなれるのだと信じている。
ショスタコーヴィチのシンフォニーを弾いた経験は、今度のソナタの演奏にいろいろな面で生かすことができると思う。書かれた年代には30年の隔たりがあるが、作曲者の語法は同じである。ショスタコーヴィチは、もう20年近く前にピアノ五重奏曲を弾いたが、ソナタをどのように表現できるか、今から楽しみだ。
今日は、ちょっと嬉しいことがあった。いよいよベートーヴェンのソナタ全曲のCDが近々完成するというニュースがもたらされたのだ。しかも、これが文化庁の芸術祭に参加することも決まった。私が最後に芸術祭に参加したのは、やはりベートーヴェンのソナタだったが、あれはヘルムート・バルト氏との演奏会だった。レコード(CD)での参加は、1978年の「邦人ヴァイオリン作品集」以来となる。力を入れて取り組んだアルバムだけに、芸術祭参加決定は嬉しい出来事だ。どんな評価を受けるのか、虚心に待ちたいと思う。このCDの発売は、10月25日の予定である。
もう一つ、しばらく体調を崩して休んでいた生徒が、来週からレッスンを再開して欲しいと連絡してきた。体を壊している間に、「自分はヴァイオリンの道に進むべきか、それとも別のことをやるべきか」と悩んだようだが、結局ヴァイオリンで頑張ってみようと決心したようだ。喜ばしいことである。
明日からは、日本音楽コンクールの審査が始まる。6日連続のハードな仕事だが、今年はどんな才能に出会うのかを楽しみに、明日は早起きして出かけることにしよう。
和波たかよし
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