12月21日 本番は明後日
とうとう12月が後11日だけになってしまった。またまた愚痴になるが、なぜこんなに早く日が過ぎていくのだろう。「今年1年、俺は何をしてきたんだろう」と考えると、なんだか悲しくなってくる。でも、それだけの日数を生きてきたのは確かなことだし、それなりに仕事もし、経験も積んできたはずだ。そして、今年最後のコンサート、恒例の「バッハシリーズ」が明後日に迫った。
先週と先々週は、ずいぶん頑張ってレッスンをした。そして今週は、わずか4人しか教えないスケジュールにした。練習しながらしっかり身体を休め、コンサートに臨もうというわけだ。このようにして過ごせる時間を、私はいつも楽しみにしている。本番に向かってあれこれと考えながら練習するのは大変だけれど、実はこれがなによりも楽しい時間なのである。
月曜日に桐朋の試験の採点で出かけた時、先輩の先生から「毎年やっているからもう練習なんかしなくてもいいんでしょ」と言われた。冗談ではない。毎年やっているからこそ、練習が大変なのだ、と私は心の中でつぶやいた。前と同じには弾きたくない。何かもっと新鮮で素晴らしい音楽を提供したい。そんな思いが、年ごとに強くなってくる。だが、そうした意識が強くなりすぎると、私は独り相撲をとってしまう傾向がある。演奏は、常にお客様と共にあるもの、集まって下さる方々との心の交流の中から作り上げていくものでなくてはならない。練習をしっかりやることは勿論だが、本番ではその時の雰囲気に乗って、自由に弾ける余裕を自分の中に残しておかなければならない。そのための練習なのだ、と言ってよいだろう。
私が目指すのは、来て下さった方々が「ああ、出かけてきて良かった」と心から満足し、また聴きたいと思って下さるような演奏だ。こちらから「また来て下さい」と押し売りしなくても、自然にお客様が集まってきて下さるような演奏家でありたい、とずっと願ってやってきた。そうした気持ちを貫くために、若い頃からいわゆる「ファンクラブ」のような組織を作ることを拒み続けてきた。そして今、お客様がなかなか増えないことを嘆いているのだから、これは自業自得かもしれない。今年もどうやら完売とはほど遠い状況で終わりそうだ。それを思うと、以前は同じバッハの無伴奏を弾いて、たくさんの方々に「もうチケットはないのです」とお断りしていただけに、嘆かわしい気持ちになる。
だが、今朝もある方から電話で「去年聴いて、とても雰囲気が良かったので、今年も聴きたいんです」と言ってこられた。こういう言葉が、私のエネルギーになる。2年前、クリスマス・イブと重なってかなりの不入りを強いられた時も、私は「来て下さった方のためにベストを尽くそう」と意気込んで臨み、納得の行く演奏ができた。今年も願いは同じだ。集まって下さる方々に楽しんでいただくと共に、私自身も楽しめるような時を作ること、それだけだ。
バッハをどんなスタイルで演奏するか、重音奏法に磨きをかけ、細かい音程の練習をし、全体のまとまりはこれで良いかとチェックする。そうした練習は、すべてを忘れて本番で思い切り演奏できるようにするための準備なのである。
どんなに準備をして臨んでも、本番の後では後悔することがたくさんある。それに、「もう終わってしまった」との寂しさから、私は体調を崩すこともある。だが、それは終わってからの話だ。今は、本番を楽しむことだけを考えて、心をバッハに集中させて行こう。そう心に決めて、眠りに着こうとする私である。
和波たかよし
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