3月10日 休みの後に

 帰国すると、何やかやと忙しくなって、またこの日記ページの更新がままならなくなってしまった。だが、私の体内には、貴重なホリデーで蓄積された栄養分が、まだしっかり残っている。たくさんの素晴らしい音楽が聴けたことは、なによりも大きな収穫だったと言えるだろう。

 帰国前日の3月3日は、ロンドンのウィグモアホールで、デヴィッド・タケノ氏の60才バースデーコンサートを聴いた。名教師として、長年にわたって多くの優れた弟子を育ててきたタケノ氏の60才を祝って企画されたのは、2夜にわたって彼の教えを受けたヴァイオリニストたちがバッハとイザイの無伴奏作品全曲を演奏するという、スケールの大きなものだった。バッハとイザイを1曲ずつ、そして両曲の間に現代作品を挟み、それを1セットとして1日に3セット、2日で6セットという内容の濃いコンサートだ。

 私は初日しか聴けなかったが、個性豊かなヴァイオリニストが次々に登場し、3時間を超える長いプログラムにもかかわらず、全く退屈することはなかった。バロックヴァイオリンによるバッハも聴けたし、モダンヴァイオリンによるバッハからも、私が取り入れるべきものは少なくなかった。20代、30代の若手が颯爽と演奏しているのを聴くのは実に楽しい。しかも、聴いていて抵抗感を覚える音楽はほとんどなかったのである。音楽の趣は一人一人違うのだが、「これはおかしいな」と引っかかるような解釈はなかった。それだけ、演奏者のレベルが高かったということだろう。

 この日の出演者の中には、2名の日本人が含まれていた。そして、彼らを育てたタケノ氏も日本人である。ヨーロッパで生活し、ヨーロッパの音楽文化にとけ込んで、その文化の牽引者的な役割を果たしている人は多い。それを思うと、なんとなく胸を張りたい誇らかな気持ちになる。同時に、「俺もまだまだ頑張らなければ」とも思う。

 今週は、非公開の場で無伴奏曲を20分ほど弾く機会があったが、休暇の後の快い緊張と共に、楽しく演奏した。今は春休みなので、心身のストレスも少ないし、練習もかなりはかどっている。また忙しくなってくると、あえぐような気持ちで毎日を過ごすことになるだろうが、あのホリデーの楽しかった思い出を胸に、そして今の快さを忘れず、楽しくやっていきたいものである。

和波たかよし

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