6月20日 視覚障害者の携帯ワープロ競技会
17日の日曜日は、大阪へ日帰り旅行をした。しかも、仕事ではない遊びの旅行である。遊んでいて良い場合ではない、とも思ったが、前々から計画していたことだったので、予定通り出かけた。
2005年に大阪府立盲学校の卒業生の方々を中心に設立されたNPO法人、アイティーフリーが、「視覚障害者携帯ワープロ競技会」なるものを開催し、私は選手として参加したのだ。下手な横好きもいいところなのだが、参加を思い立ったのには深い訳があった。
NTTドコモが視覚障害者にも使用可能な携帯電話、ラクラクフォンを発売したのは、2001年のことだった。それまでは、私たちの携帯電話利用は、単にボタンを押して電話をかけるだけ。メールはおろか、電話帳やリダイアルさえも使えなかったのである。それがドコモの英断で、我々も音声でメールの内容を確かめたり、電話帳で自分の電話したい人を選んだりが可能になったのだ。
ただ、最初のラクラクフォンは、かなり使いにくいという評判だったので、私は飛びつかなかった。そして、2番目のバージョンが発売されてしばらく経った2003年の冬に、初めて買い求めたのである。
だが、音声が出るといっても、それは極めて限定的だった。受信メールの内容や電話帳の内容はたしかに読み上げたが、文字入力の時は音声は黙ったままだ。パソコンで文字を入力するときは、キーを押すと同時に何のキーが押されたかを音声で知らせてくれる。もう10年も前からパソコンにはそのようなソフトが組み込めるようになっていたのに、携帯はボタンを押したときのプッシュ音が聞こえるだけ。もちろん、漢字変換の時も音声ガイドはない。
それでも視覚障害の仲間は、何回ボタンを押したかを注意深く覚えておくことで、平仮名によるメール送信をやっていた。私も試みたが、どうしても間違えるので、仕事などには使えなかった。またIモードの読み上げはなく、寂しい思いをさせられた。
2003年秋のバージョンで、ようやくIモードの読み上げがサポートされた。そして2004年には、いよいよFOMAラクラクフォンが登場し、私もその機種を買い求めた。相変わらず文字入力はサポートされていなかったが、Iモードが読めることで、列車の予約や着メロのダウンロードができるようになり、わずかながら携帯の楽しみを目の見える人と共有できるようになった。
2005年秋のバージョンで、ついに入力の音声サポートが実現した。1のキーを押すと「あ」、もう一度押すと「い」と発声するようになったのだ。まさにこれは、我々にとって革命的な出来事だった。これで、メールを書くときの精度が著しく上がったのは言うまでもない。しかし、この音声サポートはまだまだ中途半端なものだった。日本語の場合は、入力した文字を漢字に変換するなどしてから確定するわけだが、確定したときには「確定」と発声するだけで、どんな文字が入力されたかはわからない。入力した文章に誤りがないかを確かめたいと思っても、カーソルを移動させるとビープ音が鳴るだけで、文字を音声で確認することができない。文章を初めから終わりまで連続して読み上げさせることはできるのだが、途中に間違いがあっても、どこにその文字があるかを確認できないので、直すこともできない。漢字変換も、「変換」と発声するだけで、どんな文字が選ばれたかを教えてくれないので、使い物にならなかった。
待たされて、待たされて、2006年の9月に発売されたバージョンで、ようやくパソコン操作に匹敵する音声サポートが実現した。余りの嬉しさに、私は発売日当日にドコモショップへ出かけてこのラクラクフォンを手に入れた。今度は漢字変換候補を説明するし、入力し終えた文字を1文字ずつ音声で確認しながら修正することもできるようになった。本当に、待ちに待った携帯の出現だったのである。
大阪での大会は、このラクラクフォンのようにしっかりした音声サポートがあれば、目が見えなくてもちゃんと活字の文章が書けるのだということをアピールする狙いを込めて開催された。点字の問題を読みながら、それを携帯で活字文書に直し、早さと正確さを競ったのである。選手は50名余り、私は5位までに入賞することはできなかったが、50分にわたって黙々と携帯への文字入力を続け、この電話が与えてくれた可能性の大きさを改めて実感したのだった。
この携帯のお陰で、私はテレフォンバンキングもできるようになったし、新幹線の車内から急ぎの仕事に関するメール連絡も可能になった。音声を聴きながらの操作だから、目で見るのに比べてかなり時間はかかるが、見える人と同じことがハンディ無しにできる喜びは計り知れない。今回の競技会が、視覚障害者のバリアフリーについて、社会の理解をいっそう深める上で大きな役割を果たすことを、強く願っている。今のところ、視覚障害者に利用可能な携帯電話を作っているのはドコモだけだが、AUやソフトバンクも、利益だけを追い求めるのでなく、こうしたバリアフリー製品にも力を注いでくれることを祈らずにいられない。
和波たかよし
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