9月27日 秋の初めに

 8月の始めに、私は自分の心に「これから俺は戦時体制に入るんだぞ」と言い聞かせ、サマーコースとサイトウ・キネンを乗り切った。「幻想交響曲」の最後の本番を終えた時、「よくこんなに長い曲をちゃんと暗譜で弾けたな」と自分に賛辞を送った。元々暗譜は私の得意技ではあるが、今年もなんとか無事にそれがやれたのだという喜びは、計り知れないものだった。

 もちろんそれは、暗譜ができたという達成感だけではない。暗譜したことによって、あの素晴らしい小澤さんと、サイトウ・キネンノ仲間たちとの音楽作りに参加できた喜びが何よりも大きかった。その喜びに身を任せる一方で、私は抱えきれないほどの疲労を抱えて東京に戻った。

 その後はあまり外出もせず、生徒のレッスンや練習をしながら、生活を少しずつ元に戻していった。ホームページには公開していないが、今年の秋はさいたま市内の小中学校を訪ねて演奏する「アウトリーチコンサート」という企画を引き受けており、今月から11月末までに、小学校5校と中学校1校で演奏する。先週の木曜日にはその最初のコンサートがあったのだが、とても暑い日で、冷房のない体育館での演奏はかなり骨が折れた。あれほどたっぷり汗をかいたのは、久しぶりのことだった。

 しかし、子供たちは静かに、そして熱心に耳を傾けてくれた。こちらの希望で低学年と高学年に分け、2回公演を行ったのが良かったのかもしれない。1年生の女の子が、メモも見ずに自分の言葉でお礼の挨拶をしてくれたのには感動した。たとえ聴衆が子供たちでも、会場が暑くても、熱心に聴いてくれる人たちの前で演奏するのは楽しい。汗も疲労も、快感に変わる1日だった。

 そして、明日は清里である。土屋美寧子と私が長年演奏してきたレパートリーの中から選りすぐりの作品を集めて、年に2回ずつ演奏するシリーズの2回目だ。今回は、第1次世界大戦中から戦後の10年間に作られた作品を集めてみたが、気の抜けない曲が並ぶこととなり、かなり練習に時間をかけねばならなかった。美寧子とも4回合わせの練習をしたが、二人で議論しながら練習するのは、私にとって至福の時だ。

 その美寧子との結婚から、今月23日で30年となった。これだけ長く付き合ってこられたことに、改めて深い喜びと感謝の念を覚えずにいられなかった。いろいろ問題はあるにしても、とにかく元気で、大きな諍いもなく、ここまで来られたのだ。これからも力を合わせ、互いの心を豊かにしてくれる「音楽」をより所として、楽しく前向きな毎日を過ごしていきたいと思っている。

和波たかよし

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